メゾチント ・ブログ

メゾチント作家、小池結衣の作品の紹介です。画像の無断転載・使用はしないでください。

メゾチントについて

メゾチントは、凹版である銅版画の一種です。
たとえばハンコで凹版をイメージしてみますと、ハンコに印肉をつけて普通に捺すと木版画などと同じ凸版ですが、試みに印肉を隙間にもよく詰め、表面の印肉をきれいにふき取ってしまってからティッシュなどの柔らかい紙を強く押し当てると、文字の部分は白く残り、通常余白として残る文字の隙間に赤い色がつくことになります。これが銅版画などの凹版のイメージです。

銅版画は表面をきれいにみがいた銅板の上に傷やミゾで絵を描き、インクをのせてこれをきれいにふき取ったあと、湿らせてやわらかくした紙をのせてプレス機にかけ、絵を写し取ります。一般的なラインエッチングなどは、その傷やミゾをつくるために腐蝕液に浸けて腐蝕させます。

メゾチントはたいへん手間がかかるといわれますが、まず始めの目立てという作業があります。
通常、メゾチントは腐蝕を行わず、まず表面を均一な傷で埋めてしまいます。一番一般的なのはベルソーという道具を使うものですが、これは円弧上に細かいトゲがならんだものです。

写真は上からベルソー、スクレイパー、バニッシャー。

ベルソーとはフランス語でゆりかごを意味するそうですが、銅板の上でひたすら左右(写真では上下方向)に揺らします。揺らしていると、自然と進んで行きますが(写真では左へ進みます)、早く進めるとキズとキズの間が開きすぎてしまうので、むしろブレーキをかける感じで、1ミリ幅を3,4往復するくらいの密度で進めます。密度や深さにむらがあると仕上がりに影響するので、出来る限り均一になるように気をつけます。


写真では、版の右上の色の変わった部分がベルソーの進んだあとです。6分の1終わったところだと誤解されますが、このままではまだキズとキズの間に隙間が残っています。これが終われば45度回転させてナナメを、次はまた45度回転させて横方向を、その次はもう片方のナナメ、これを1セットとして数セット繰り返します。私は通常6セット行いますので、写真は目立てが144分の1出来たところということになります。ベルソーによる目立ては大変手間がかかりますが、深い黒と、布目のようなテクスチャー、なめらかなグラデーションは、他の技法では得られないものです。
緻密で均一な目立てが終わると、やっと絵を描く作業です。先が三角錐に研いであるスクレイパーという道具で削り、先がなめらかになっているバニッシャーで磨きます。

キズを完全に取り去ってピカピカに磨き上げると白くなり、キズを小さくする程度だとグレーになります。ベルソーも頻繁に研がなければなりませんが、スクレイパーはさらに1日に何度も研ぎなおす必要があります。ちょっとやそっと削っても絵柄は現れてこないのですが、金属で金属を削りますので、不用意に力を入れると新しい傷ができてしまい、汚くなってしまいます。表面をなでるように、薄皮をはぐように、慎重に何十回も同じところを削って白くします。版だけ見ても仕上がりはよくわかりませんので、何度も試し摺りをくり返しながら進めます。


また、目立ては他にもいくつかの方法があります。
ルーレット ・・・ 持ち手のついたちいさな円柱上にトゲがたくさんついている道具で、銅板上をコロコロと転がして使います。ベルソーほどの強い黒は出ません。銅版画の他の技法と組み合わせ、画面の一部のみメゾチントを施す時などにも使います。
ハーフトーンコーム ・・・ T字型の、レーキのような形の工具です。T字の先端が小さなベルソーのようになっていて、定規をあて、引っかいてミゾを作ります。銅板上にインクのたまるささくれが残らないためルーレットよりさらに黒は薄くなりますが、規則的な線が独特のテクスチャーです。
線引き ・・・ ニードルなどを使い、定規をあてて一本づつ線を引いて画面を埋めてゆく方法です。大変な作業に思われますが、ベルソーほどの手間ではありません。ささくれも残り、得られる黒も深いです。
アクアチント・・・得られる黒はベルソーほどではありませんが、松脂の粉を銅板にのせて熱で定着させたものを腐食する、アクアチントの技法を目立ての代わりにする方法もあります。



わかりにくい説明で恐縮ですが、このブログでは特に明記していないものはベルソーによる作品です。



個展などで実物を見て頂くのが本来ですので、未発表の新作は原則としてアップしません。旧作を気まぐれにアップします。